マルチドメインタンパク質の構造予測

100〜200個のアミノ酸から作られている水に溶けるタンパク質は、表面が水になじみやすい親水性のアミノ酸から、内部は水になじみにくい疎水性のアミノ酸からできており、基本的に球状の形をしている。このようなタンパク質は球状タンパク質と呼ばれている。これまでに知られているタンパク質の中で、最も多くのアミノ酸からなるタンパク質は、ヒトなどが持つTitinで、3万個以上のアミノ酸からできている。このようなタンパク質の場合、3万個のアミノ酸残基全体で球状をしている訳ではなく、100〜200残基程度の「球状ドメイン」と呼ばれる構造がたくさんつながっている。

Titinの例の様に、ヒトをはじめとする高等真核生物由来のタンパク質は、タンパク質が平均的に大きく、その多くが複数の球状ドメインからなるマルチドメインタンパク質である。生物学的に重要なタンパク質もマルチドメインタンパク質の場合が多いが、大きなタンパク質は実験的に扱いが難しいため、タンパク質全体ではなく、全体から一部を切り出して実験される場合が多い。タンパク質の立体構造を決定する場合も、マルチドメインタンパク質全体の構造決定には非常に時間がかかることや構造決定法の技術的な限界などから、全体構造ではなく、切り出されたドメイン単独の構造が決められることが多い。このようなことができるのは、球状ドメインを切り出すことができれば、それ単体でも安定な立体構造を作ることができ、そのドメインが担っていた生化学的な機能も保持されていることが多いためである。

個々の球状ドメインにも、そのドメインが担っていた生化学的な機能は保持されていることが多いため、球状ドメインごとに立体構造が決められても有用な情報を得ることはできる。しかし、タンパク質全体の生化学的機能は、各球状ドメインがどのような空間的配置にあり、各球状ドメインの持つ機能部位がどのような位置関係にあるかを知ることが重要になる。そこで、この研究では、個々のドメイン構造(実験的に決められたもの、もしくは、ホモロジーモデリングなどの構造予測法により推定されたもの)をもとにしてマルチドメインタンパク質全体の立体構造推定を目指すことを目的にしている。