動物は、水中で生まれ進化を経て、陸上へと分布を広げていったと考えられている。しかし、その生存環境の差は非常に大きい。水中は、温度環境が極めて安定しているが、水に溶ける酸素には限りがあり、エネルギー効率が悪い。これに対し、陸上に進出すると、呼吸によるエネルギーの獲得効率は飛躍的に向上するが、一方で温度環境は劇的に変化しやすくなり、日光による急激な温度上昇や乾燥、場合によっては極端な低温と戦わなければならない。しかし、実際には、動物たちは、水中から陸上へ、更に極めて多様な生息環境に適応し、生息域を拡大した。この「環境の変化に適応して陸棲化し、分布拡大していった動物たちは、外界から温度情報・刺激を受け取る感覚の仕組みや感度を大きく機能変化」することが生存戦略上必要であった筈である。
動物が持つ細胞外からの主要な侵害刺激センサーは、Transient Receptor Potential (TRP)チャネルと考えられている。これらTRPチャネルは、近年、浸透圧、機械刺激、化学物質、温度、pHなど多数の刺激によって活性化されることが発見されてきた。その中で、特に感覚神経に発現する主要な温度感受性TRPは、TRPM8、TRPV1、更にTRPA1などである。本研究室では、これらのTRPセンサーを中心に、水中に棲む魚類はどんな感受性を持った感覚センサーを持っているのか、動物の陸棲化に伴って感覚センサーの働きがどう変化したのか、多様な生息環境への適応に感覚センサーの変化がどう関わっているのかなどについて、様々な動物からTRPチャネル遺伝子を単離し、解明を進めている。
これまでにヒト、マウス、ニワトリ、ヘビ、カエル、アホロートル、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ、フグ、イトヨ)からTRPA1やTRPV1をクローニングし、Ca2+イメージングや電気生理学的手法で機能解析を進めている。特に最近の研究で、魚類TRPA1の高温応答性は徐々に高温活性化される性質あり、陸上動物になり大きく機能変化を獲得したことが分かってきた。一体、どの動物から陸上動物型になったのか?
暗室でのCa2+イメージング
カエル卵母細胞を用いた電気生理解析
古代魚