(1)渋味の研究

 動物が口で感じる味覚には, 味蕾からの入力に由来する5基本味以外に、主に感覚神経の興奮に起因する味覚として辛味・渋味などがある。辛味の感知には, 主にトウガラシに含まれるcapsaicinなどにより活性化されるTRP(Transient Receptor Potential)チャネルファミリーのTRPV1が関与していると考えられている。一方, ポリフェノール類などによって起こる渋味についてはどのような仕組みで渋味感覚が起こるのか詳細は殆ど明らかにされていない。これに対し, 我々は、お茶に含まれるポリフェノールの一種・酸化EGCGが哺乳類TRPA1とTRPV1を活性化すること、更に渋味物質のタンニン酸が哺乳類TRPV1を活性化することを見出してきた。現在は、特にTRPチャネルを介する渋みの感覚は動物界に広く共通な感覚なのかに注目して研究を進めているが、種々の動物で大きく渋味感覚が異なっていることが見出されてきた。
 

(2)動物の多様性及び環境適応を支える感覚センサーの機能

 動物は、水中で生まれ進化を経て、陸上へと分布を広げていったと考えられている。しかし、その生存環境の差は非常に大きい。水中は、温度環境が極めて安定しているが、水に溶ける酸素には限りがあり、エネルギー効率が悪い。これに対し、陸上に進出すると、呼吸によるエネルギーの獲得効率は飛躍的に向上するが、一方で温度環境は劇的に変化しやすくなり、日光による急激な温度上昇や乾燥、場合によっては極端な低温と戦わなければならない。しかし、実際には、動物たちは、水中から陸上へ、更に極めて多様な生息環境に適応し、生息域を拡大した。この「環境の変化に適応して陸棲化し、分布拡大していった動物たちは、外界から温度情報・刺激を受け取る感覚の仕組みや感度を大きく機能変化」することが生存戦略上必要であった筈である。
 動物が持つ細胞外からの主要な侵害刺激センサーは、Transient Receptor Potential (TRP)チャネルと考えられている。これらTRPチャネルは、近年、浸透圧、機械刺激、化学物質、温度、pHなど多数の刺激によって活性化されることが発見されてきた。その中で、特に感覚神経に発現する主要な温度感受性TRPは、TRPM8、TRPV1、更にTRPA1などである。本研究室では、これらのTRPセンサーを中心に、水中に棲む魚類はどんな感受性を持った感覚センサーを持っているのか、動物の陸棲化に伴って感覚センサーの働きがどう変化したのか、多様な生息環境への適応に感覚センサーの変化がどう関わっているのかなどについて、様々な動物からTRPチャネル遺伝子を単離し、解明を進めている。

 これまでにヒト、マウス、ニワトリ、ヘビ、カエル、アホロートル、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ、フグ、イトヨ)からTRPA1やTRPV1をクローニングし、Ca2+イメージングや電気生理学的手法で機能解析を進めている。特に最近の研究で、魚類TRPA1の高温応答性は徐々に高温活性化される性質あり、陸上動物になり大きく機能変化を獲得したことが分かってきた。一体、どの動物から陸上動物型になったのか?


暗室でのCa2+イメージング


カエル卵母細胞を用いた電気生理解析


古代魚
 

(3)滋賀県内に生息する希少水生動物の生息実態調査と遺伝系統の解明

 滋賀県には我が国最大の湖で世界有数の古代湖でもある琵琶湖があり、特に大学の位置する湖北地方は、今なお豊かな生物多様性を保ち、早春には希少種カスミサンショウウオの産卵、初夏にはホタルの飛翔や琵琶湖から各河川への魚の遡上を見ることができる。また、一部の北部渓流では、国の特別天然記念物・オオサンショウウオの繁殖が県内で唯一確認されている。これらの豊かな生物多様性を如何に未来に残してゆくかを探る為、特に希少水生動物に注目して、サンショウウオ類・カエル類・希少魚類などの生息状況の実態調査と、DNA解析による遺伝系統把握を進めている。

カスミサンショウウオ

 これまでに県稀少種のカスミサンショウウオの研究については、まず田村山の集団を保護する「田村山生き物ネットワーク」を地域住民の人たちと作り、水枯れ対策として保護池を造成。元の水枯れする水路からの移植を試みている。現在は、ついに保護池出身の親サンショウウオが春に造成した保護池に産卵にくるようになってきた。この活動は、第1回しが生物多様性大賞を受賞。また、他の県内集団についても調査を進め、特に遺伝子解析の結果、県内には5系統のカスミサンショウウオの遺伝グループがあることを発見した。カスミサンショウウオ以外にも山地森林に棲む稀少種のコガタブチサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、ハコネサンショウウオの県内生息地を見出し、生息現状の把握と遺伝子系統調査を展開中である。また、特別天然記念物のオオサンショウウオについては、地域で保護活動の盛んな木之本町の集団の調査・遺伝子鑑定、更に湖西側でのチュウゴクオオサンショウウオや雑種の県内侵入阻止を目指した研究を進め、まだ殆ど分かっていない滋賀県内でのオオサンショウウオの分布と生息実態の解明を目標にしている。昨年から、特に環境DNAを用いて、河川水からオオサンショウウオを探す研究に着手した。また、研究室では「滋賀のオオサンショウウオを守る会」に参加・協力しています。
 一方、カエル類については、アマガエルの遺伝系統調査、さらにモリアオガエルの県内生息地探索を最近開始したところである。


アマガエル


ハコネサンショウウオ幼生


モリアオガエル


早春のオオサンショウウオ調査
 


〒526-0829 滋賀県長浜市田村町1266 TEL 0749-64-8100(代)/ FAX 0749-64-8140